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フォーラム記事

蒼山 継人
トップライター
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2022年9月08日
In 「本日は、お日柄もよく」
著者の原田マハの作品は素晴らしいものが多いが この作品は彼女の本を読んだことがあるからすると作風がガラッと違うため 驚かれることと同時にとはいえ彼女の紡ぐ言葉たちの温かさに癒されることだろう。 あらすじは以下のとおりである。 二ノ宮こと葉は、製菓会社の総務部に勤める普通のOL。 他人の結婚式に出るたびに「人並みな幸せが、この先自分に訪れることがあるのだろうか」と、 気が滅入る27歳だ。けれど、今日は気が滅入るどころの話じゃない。 なんと密かに片思いしていた幼なじみ・今川厚志の結婚披露宴だった。 ところが、そこですばらしいスピーチに出会い、思わず感動し、涙する。 伝説のスピーチライター・久遠久美の祝辞だった。 衝撃を受けたこと葉は、久美に弟子入りすることになるが… タイトルと出だし、あらすじからいって、結婚式のスピーチに終始するOLのお話かと思ったら、 全く見事にいい意味で裏切られる 言葉が持つ力を最大限感じさせてくれる。 ここに作中にもある『スピーチの極意 十箇条』を引用する 1 スピーチの目ざすところを明確にすること 2 エピソード、具体例を盛り込んだ原稿を作り、全文暗記すること 3 力を抜き、心静かに平常心で望むこと 4 タイムキーパーを立てること 5 トップバッターとして登場するのは極力避けること 6 聴衆が静かになるのを待って始めること 7 しっかりと前を向き、右左を向いて、会場全体を見渡しながら語りかけること 8 言葉はゆっくり、声は腹から出すこと 9 導入部は静かに、徐々に盛り上げ、感動的にしめくくること 10 最後まで、決して泣かないこと。 作中にも深く染み渡ることばが多いが、下記の言葉を贈って締めたい。 “困難に向かい合った時、もうだめだと思った時想像してみるといい。  3時間後の君涙がとまっている。24時間後の君涙は乾いている。  2日後の君顔を上げている。3日後の君歩きだしている。” 読み終わったあと、あなたはきっと言葉を惚れ直しているだろう。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年9月08日
In 「ワイルド・ソウル」
名作の多い垣根涼介であるが本作品は 第6回大藪春彦賞、第25回吉川英治文学新人賞、第57回日本推理作家協会賞の三賞を受賞した 垣根涼介の代表作である。 1960年代、戦後日本国政府・外務省が推し進めた南米への移民政策がある。 これは様々な文献があり歴史的事実として語られてきた。 だがその正体は戦後の食糧難時代に端を発した口減らし政策だったのだ 未開のジャングルで多くの命が失われた、実際の史実をもとにしたハードボイルドストーリー。 “その地に着いた時から、地獄が始まった――。 1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。 だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。 絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。 そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。 そして現代の東京。ケイと仲間たちは、政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す!  歴史の闇を暴く傑作小説。” 戦後の南米移民政策をベースに、 ハードボイルド・ミステリー・ヒューマンドラマと言ったあらゆる要素を含んだ本作品 南米出身の日系人がなぜ多いか。 その歴史的背景をリアリティ溢れる描写で表現し、多くの学びを得ることができる。 我々は何も知らなかった彼らのことを。 半世紀ほど前に多くの同胞を葬ったこの歴史を少なくとも私は知らなかった。 漫然といまを享受してしまっている自身を恥じてしまった。 この物語の序章はノンフィクションであり、 重い厳然たる歴史的事実を読み手の眼前に突き付けてくる迫力と、強い説得力がある その子供たちが日本に復讐にやってきたときのセリフもまた考えさせられる。 “おれの国じゃあ、金のないやつはないなりだ。 服装も住む家もそうだ。それでけっこう笑って暮らしている。 だがこの国の連中ときたら、どいつもこいつも飾り立て、 少しでも自分をよく見せようと躍起になっている。 それがまあ、貧乏臭い” 棄民してまで手に入れた日本の現状を辛辣に言い表している。 復讐の内容もしかり、物語の背景は大変に残酷なのだが 痛快に読めるよう仕立てられていることがほんとうにすごい。 この種の悲劇は過去の歴史のそこかしこにあり、 現在も、そしてこの先も止むことはないのかもしれない。 ただ、いまをいきていくためにも この本を読んで立ち返ってほしい。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年9月03日
In 「予想どおりに不合理」
まさに行動経済学の面白さを教えてくれる一冊。 著者は近年の論文や本によく引用される行動経済学者のダン・アリエリーである。 行動経済学とは、典型的な経済学ではなく、 実際の実験やその観察を重視して、 人間がどのように選択や行動を行い、 その結果がどうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野である。 人が行動を起こす動機を研究した本であるともいえる。 経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する人間は"ホモ・エコノミクス"と呼ばれるが 実際の世の中においてはこの"ホモ・エコノミクス"のような人間はあまりいない。 なぜなら人間は往々にして冷静な判断ができず、 不合理な意思決定をしてしまうことが多々ある。 いや、むしろわかった上で不合理な行動を起こしているのだ。 行動の背景は必ずしも合理的ではなく経済学上は間違っているけれど、 よくよく自分に置き換えて考えてみれば、 経済学的には間違いとされる行動を取ることに納得できるシーンも少なくない 本書では筆者のダン・アリエリーが そうした人間が「見て見ぬフリ」をしてきた 『人間がなぜ不合理な選択や行動をしてしまうのか』について 明らかにしようと数多くの実験を行い、考察し、 その結果を分析・検証している。 他人や環境・自分自身の感情や先入観で、 簡単に不合理な意思決定や行動をしてしまうことが明らかとなってくる。 我々の意識的選択は無意識的に選択させられていることもきっと多いのだろうと実感する。 いまこの瞬間の意思決定がアンカリング(認知バイアス・錨)となって、 未来の行動に影響を与えることにもなる。 人間の心理や行動経済学を学びたい人はこの本からをおすすめする。 マーケターは必読書である。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年4月06日
In 『沈黙』
自身もキリスト教徒である遠藤周作。 彼の代表作品のひとつである『沈黙』 小説の舞台は江戸時代初期。 キリスト教禁止令が出された頃の長崎である。 主人公はポルトガルの宣教師ロドリゴ 物語はローマ教会の優秀な神父であったフェレイラ神父が 日本で転んだ(棄教した)という報告から始まる。 キリスト教迫害下にあっても不屈の精神で布教活動を続けていたロドリゴの師ともいうべきフェレイラ神父の棄教は、ローマ教会に強い衝撃を与えた。 報告を受けた、ポルトガル司祭ロドリゴはその謎を追うために日本へと旅立つ。 そんなロドリゴを待ち受けていたのは苛烈なキリシタン弾圧だった。 貧しくて明日を生きるのも懸命で、純真な農民たちが拷問を受けている。 神はなぜ沈黙しているのか… 遠藤周作自身は講演で本作品に関して下記のように述べている。 人間は〈強虫と弱虫〉の二種類に分けられるだろう、と私は思ってきました。 私は強くないし、信念を貫き通せる人間でもない。 信念というものを持ってみたいとは思うけれど、 周りから圧迫をうけるとすぐヘナヘナになる人間です。 つまり弱虫なのです。 強虫——そんな言葉はありませんが——というのは、どんな目に遭っても信念を貫き通せる。 小説というのは、やみくもに書くのではなく、自分の視点から書くものです。 そして『沈黙』は、〈迫害があっても信念を決して捨てない〉という強虫の視点ではなくて、 私のような弱虫の視点で書こうと決めました。 弱虫が強虫と同じように、人生を生きる意味があるのなら、 それはどういうことか——。これが『沈黙』の主題の一つでした。 卑怯で意志の弱い日本人キチジローはまさしく弱虫の象徴でもある。 神の沈黙を通して、日本人による宗教観が浮き彫りとなり キリスト教の本質を問い掛けていく 信仰とは、神とはなにか、 その深淵たるテーマを考えさせられる名著である。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年4月02日
In 「こころ」
むしろ日本人でこの小説を知らないひとはいないのではないかと思われるほど、日本文学の代表作品ともいえる夏目漱石の小説『こころ』 たしか中学生の頃に読書感想文として書いた記憶がある。 きっと多くの皆様も同様に書いてきたのではないだろうか。 その当時からわたしは『こころ』が苦手だった。 登場人物の心理描写がわかりにくいにも関わらず、あまりにも名著であることが顕示されているからなによりも否定がしにくい。肯定的に読むことが押し付けられているような圧迫感があるし、かつ読んで感動、感心ができなかったらセンスがないと思われそうだし、中学生のころ憂鬱になりながら読んだ記憶が懐かしい。 だからいまだに苦手意識はある。 小説家の世界でも「すでにそれは漱石が書いている」という戒めがあるほど、夏目漱石が描いたテーマやメッセージは普遍性と不変性をもっているため、今回の書評にもあえて書く意味があるものにしなければと姿勢が正される。 いまさらながらかもしれないが構成は3部構成となっている。 ・先生と私 ・両親と私 ・先生と遺書 この物語の主人公は私ではなく、先生である。 その先生の変容を描いているわけだが分けて考えると「お金」、「恋愛」、「死」が彼を変えている。 そしてその葛藤の変遷が遺書での告白で描かれている。 上記のそれぞれがそもそもビッグテーマなので、ひとつを題材として挙げ、深く検証していくこともできるが、まず背景として明治天皇の崩御と乃木希典の殉死が大切なテーマとなっている。 西南戦争を経て、死に場所を探していた乃木希典に自身を投影させた先生。 明治から大正への移り変わり、封建的道徳(家族主義)から西洋的個人主義になっていった背景が前提としてある。 その生きにくさを読み取ることができる。 エーリッヒフロムが『自由からの逃走』において 「近代人は自由を得る代わりに孤独になった」と考えを述べているが、まさしく『こころ』はその小説版として描かれているともいえる。 共同体から脱却し、役割・機能の制限もなく、自由への萌芽が生まれてきた中で「個」としてどうあるか、自分らしさ、自己としての選択をしていったなかで、皮肉にも小説の中でその選択をした人物はみな自死していることも一考すべきであろう。 今回は近代化にむけて生まれた自由と孤独の側面から訴求してみたが、こころとはそのものが常でなく、変化し続けるものである。だからこそ、様々な角度から読み解くことができ、読む人に合わせて伝わるメッセージもまた変わる。 名著が名著たるゆえんかもしれない。 いまあなたにはどう映るのか。 また手に取ってみてほしい。 知人が前に言っていたが、 「こころの最も面白いところは現代人が理解できないことだ」と。金言である。 まさしく時が流れたことを強烈に示している。 その移り変わりもまた「こころ」ゆえで面白い。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年3月22日
In 「虐殺器官」
はじめてこの小説に出逢ったときの衝撃を忘れられない。 ことばを愛する人にはたくさん出逢ってきたが この作者はことばから愛された人なんだと嫉妬を覚えた ことばをひとつの人格まで昇華させている だから、「わたしのことば」のように、 所有格としてことばを所有しているのではなく、 「わたしとことば」なのだ。 ことばと遊んでいる。その遊び方がわたしとは全く違うけれど ことばの力を最大限引き出している。 ことばへの敬意と愛に感銘を覚えた。 随所に読みごたえのあるテーマや表現、哲学が散りばめられている。 ウクライナの情勢を鑑みるとまさしくこれからの未来さえも予見しているかのようだ。 あらすじとしては以下のとおりである。 9.11以降を舞台としており、 テロとの戦いのなかで先進諸国は徹底的な管理体制に移行した。 その一方で後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。 その背景として虐殺を扇動しているとされるアメリカ人ジョン・ポールの存在が浮かび上がる。 彼の目的はいったい何なのか? アメリカ情報軍で特殊任務に就いていたクラヴィスはジョンの暗殺指令を受け、彼を追い続ける。 ようやくジョンと対面することができたクラヴィスは 「人間には虐殺を司る器官が存在し、器官を活性化させる“虐殺文法”が存在する」ことを聞かされる。 はたしてその器官とは、虐殺の文法とは… まだ読まれてない方は、まずは手に取って そのあとはハーモニーもぜひ。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年2月22日
In 「西の魔女が死んだ」
読書感想文の課題にもよく選ばれるほど、 不朽の名作と呼ばれる本作品 なぜ名作になったのかを考えながら紡ぎたい。 主人公は中学に進んだばかりの少女まい 彼女はいじめが原因で学校に通えなくなる。、 どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、 季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、しばらく休んで 大好きな祖母のもとで暮らすこととなった。 まいが英国人で魔女の血を引いているという祖母の家に預けられると、大好きな祖母から、自分たちの家系には不思議な力が受け継がれていると聞いて、まいも魔女になるべく手ほどきを受ける。 自給自足の穏やかな田舎暮らしのなかで 悪魔が寄ってこないためにも規則正しく生きることを心掛ける。 特にこの魔女修行においての肝心かなめは、 何でも自分で決める、ということだった。 感受性の強い少女の心のひだを丁寧に紡ぎながらも まいが自分なりに生きる精神力を獲得していく姿が心に残る。 西の魔女のことばもなにか説教めいたところはなく、訓示的でもないのだが、心にすっと染み渡ることばが散りばめられている。 たとえば楽なほうに流されるという事象や表現を見たときに なぜか感覚的にすぐにそれはいけない事だと思ってしまうが、 魔女は「シロクマがハワイでなくて北極に住んでいてもだれも責めない」と諭してくれる 自分が「楽なほう」と思うところは「自分が一番居心地がいい場所」でもあるわけで、つい生きにくいところで生きることを努力として奨励や美徳として捉えがちな現代において、生きやすいところを選ぶことを甘えではなく、ある意味多様性の一つとして肯定してくれるところにほっとさせられる読者も多いのではなかろうか。 魔女という表現からなにか魔法めいたことがあるのではないかと、まさしくハリーポッターや指輪物語のような事象を想像した方もいると思うが、そのようなことは起きない。 ただある意味、魔法は日常の様々な場所に溶け込んでいて それは誰にでも扱うことができるのだが、 その魔法の存在に我々が気づいていないだけなのではないかと考えさせられる。 孫である少女まいから「大好き」と言われるたびに 西の魔女である祖母は「アイ ノウ」と返す。 貴女の愛を私は知っている、理解していると 祖母はきちんと正しく受けとってくれる。 人間の根幹を形成するうえでとても大事な時間を追体験できる物語である。 世の中には売れる本と残る本というのがある。 もちろん売れないと残ることができないのだが 売れても残ることができない本のほうが大多数である。 時の洗練を経て、いまなお残っている本はそれだけで価値がある。 そう思って数多にある本の中でも古典と呼ばれる本を中心に 有限の時間だからこそ、読んできた。 まだ本質的にはつかみ切れていないのが、 そこには共通する残る理由があるように感じられる。 本作品もまだまだ「最近の本」ではあるが 静かに長く売れ続けている(残っている)のをみると 古典となる日がすぐに来るのかもしれない。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年2月08日
In 「嫌われる勇気」
多くの方が絶賛した本書『嫌われる勇気』 この本ではないが、私がはじめてアドラー心理学と出逢ったのは高校生の頃であった。 当時も感動したが、いまだにその考えをきちんと理解し、落とし込み、実践しきれているかというとまったくそんなことはないため、改めてこの書評で整理し、再実践できたらと思う。 本書は心理学者「アルフレッド・アドラー」が提唱した 「個人心理学(アドラー心理学)」から対人コミュニケーションの極意を解説した一冊といえる。 精神分析学や心理学といえば、「フロイト」や「ユング」が有名であるが、世界的にはさらに「アルフレッド・アドラー」を加えて、「心理学の三大巨頭」と並び称されている。 本書の構成は非常に読みやすい形になっており、アドラー心理学を修めた哲学者である「哲人」と、対人関係を中心とした悩みを抱える「青年」のダイアローグ(対話形式)で、 アドラー心理学のエッセンスを分かりやすく解説するという形になっている。 人間は社会生活を営んでいく上で、 上司、部下との関係、家庭内(パートナー)の関係など、 いろいろな悩みを抱えている。 確かにビジネス、プライベート、様々なシーンにおいて、 抱えている悩みの種類は異なるようにも思えるが しかし、これらの悩みについて、アドラーは次のように断言している。 「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」 そんなことはないと思う方にこそ、ぜひ読んでもらいたいが 他者の存在があるからこそ、悩みは生じてしまうのである。 たとえば孤独という一見個人の問題と思われる問題も、 「普通なら他の人とうまく付き合っていけるはずなのに、自分はできない」というように 社会・他者が存在しているからこそ生じるのである。 そのうえで、ではその他者とどう善き関係を築いていったら良いのかを本書では展開されている。 その出発点として「課題の分離」を挙げている。 「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」と格言があるように、コントロールできない他者である馬の課題を自身の課題にしないことが肝要である。 他にもキーとなる考えが多く含まれているのでぜひ一読いただきたい。 またアドラー心理学の中で特筆した概念が原因論ではなく目的論で捉えることである。 そのため、アドラー心理学はトラウマを明確に否定している。 こちらは少し解説するとたとえば、引きこもりの人を原因論で考えたとき、「不安だから、“仕方なく”外に出られない」と考えることができる。 だが目的論(アドラー心理学の考え方)では順番が逆となる。 つまり「外に出ないという目的のために、不安という感情を作り出す」と考えるのである。 もちろん過去のさまざまな出来事は、人格形成へと強く影響をあたえることは否定しないが、しかし大切なのは、それによってなにかが決定されるわけではないということである。 「いまのあなたが不幸なのは自らの手で「不幸であること」を選んだからなのです。」と、このように本書には一見厳しい言葉も散見されるが、逆に幸福であることを選べば、すぐに変われることを示唆しているともいえる。 ここまでの内容からもわかるようにアドラー心理学の影響力は強く、自己啓発の世界的ベストセラーとして古くから読まれている、デール・カーネギーの「人を動かす」やスティーブン・コヴィーの「7つの習慣」にも、影響を与えたといわれている。 「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と述べた アドラー心理学では「「対人関係のゴールは共同体感覚」だと述べている 共同体感覚とは他者を仲間だとみなし、そこに自分の居場所があると感じられること。そのためにも他者に貢献することが大事であると述べられている。 幸いにもこの失敗図書館は、まさしくその共同体感覚を醸成できる場なのではないかと思えたことが今回の大きな発見でもある。 多くの人にとってそうであるようにまた貢献していきたい。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年2月08日
In 「FACT FULNESS」
公衆衛生学者、教育者としても有名な著者のハンス・ロスリングは述べる。 もしあなたが「世界はどんどん悪くなっている」と感じているとしたら、それは事実に反している。それどころか世界は確実に、どんどん良くなっている。と タイトルにもあるファクトフルネス(FACTFULNESS)とは、 「データを基に世界を正しく見る習慣」を意味する。 多くの人は、「自分が知っている世界は事実とそうかけ離れたものではない」と信じこんでしまっている。 そんなことはないと思ってしまう読者に本書ではまず13の質問が用意されている。 これはロスリング氏が考案した経済、人口、保健、環境に関する13問の3択問題である。 これまでに14カ国、述べ1万2000人が回答したところ、 正答率が最も高かったグローバルな気候変動の問題(正答率86%)を除いた12問について、 その正答数は平均でわずか2問だったのである。 つまり国際的に活躍しているエリートでさえ、 ほとんど正解にたどり着くことができなかった質問である。 それは例えば、こんな問題。 質問1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を終了するでしょうか? A:20% B:40% C:60% 質問2:世界でもっとも多くの人が住んでいるのはどこでしょう? A:低所得国 B:中所得国 C:高所得国 続きの質問はぜひ本書で体験してほしいが どうしてこのように世界についての間違った認識が蔓延しているのだろうか。 もちろんセンセーショナルなジャーナリズムや、脅しをかける活動家の責任もある。 しかしそれは微々たる影響でしかない。 その根本には、私たちの本能に根ざした思い込みがある。 その本能として以下のものを挙げている。 10のドラマチック本能 ①分断本能  ②ネガティブ本能 ③直線本能 ④恐怖本能 ⑤過大視本能 ⑥パターン化本能 ⑦宿命本能 ⑧単純化本能 ⑨犯人捜し本能 ⑩焦り本能 そしてそのメカニズムと対処法についても提案されている。 そのうえでこれらの本能に抗うには、知識不足と戦い、 定期的に情報をアップデートすることが必要だと主張している。 つまりデータに基づいた真実の世界の姿を私たちに示し、 そうした思い込みを克服する習慣、すなわちファクトフルネスを身につけるように提唱しているのである。 世界を正確に捉えることはビジネスモデルやマーケティング対象を選定する上で大変重要なことなので 仕事においても生きてくることは間違いないが、作中でロスリング氏はこう述べている。 ほかの本と違い、この本にあるデータはあなたを癒してくれる。 この本から学べることは、あなたの心を穏やかにしてくれる。 世界はあなたが思うほどドラマチックではないからだ。 健康な食生活や定期的な運動を生活に取り入れるように、 この本で紹介する「ファクトフルネス」という習慣を毎日の生活に取り入れてほしい。 著者はこの本を書き終える前に亡くなってしまい、 家族との共著になったが、だからこそこの本の持つ意味やメッセージは深みをより感じられる。 もちろん著者らは「世界はなにもかもがうまくいっていて問題はひとつもない」と言っているわけではない。 実際に起きる可能性が高いリスクとして、 感染症の世界的な流行、金融危機、世界大戦、地球温暖化、そして極度の貧困の5つを挙げている。 ただ世界は確実に良くなってきている まずその事実(データ)を正しく認識したうえで さあ、どうするかと問いかけてくる。 あなたがいま見ている世界に対して穏やかな気持ちになれて これまでの思い込みから脱して、世界に希望をもってまた一歩を踏み出せる名著である。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年1月28日
In 『GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代』
「ギバーであれ」という言葉は昨今においてはよく目にもするし、よく聞く顕著なフレーズであるが、この本から影響を受けて発信している人も多いのではないかと思う 著者でもあり、組織心理学者のアダム・グラントは人間のタイプを以下の3つに分類している。 ・ギバー:人に惜しみなく自分の時間や知識を与える人 ・テイカー:真っ先に自分の利益を優先して、利益の総取りを狙う人 ・マッチャー:損得のバランスを考慮して行動する人 成功をおさめる人々には「やる気」「能力」「チャンス」という3点に加えて「ギバーである」という共通点が挙げられる。特に大成功においてはそうだ。 ここで面白いのは上記のように分類されたときに おそらくみなさん自分はどれかなと思ったと思うのだが タイミングによって、変わることが往々にしてあることだ。 ほとんどの人が家族や友人に対しては打算なしで相手の役に立とうとする「ギバー」になるが、仕事においては与えることと受け取ることのバランスを取ろうとする「マッチャー」になっているのではないだろうか。 そう、ここでも多くの人が仕事において「マッチャー」であると指摘しており、だからこそ、成功するためにも「ギバー」を目指すべきとそのまま指南するかと思いきや、調査によれば、最も成功しているのはギバーであると示しながらも同時に成功から最も遠いのがギバーであることも指し示しているのだ。 なのでシンプルにギバーを目指すのではなく ただのいい人に陥らないためにも、成功するギバーと失敗するギバーについての考察もあり、学びの深い内容となっている。 ぜひ読んでほしいため、詳しくは述べないが ギバーが成功しやすいのは全体幸福に基づいて そのパイを大きくしようと考えることが大きいのである またギバーは他者の可能性にも期待することを挙げている。 学校の教師と生徒の例もあって、まず「期待すること」 それが能力を引き出して、開花させていくことが書かれているが、これは夏目漱石における『坊ちゃん』の坊ちゃんと清の関係もまさしくそうであることは余談である。 そのうえでギバーが成功するためには、 他者に尽くすだけでなく自分の利益にも関心を持つこと。 また人によってギブ・アンド・テイクのやり方を使い分けることが重要であると述べられている。 これもある意味、囚人のジレンマにおける「しっぺ返しの法則」がそのまま当てはまりそうなことも面白い。 これからの時代において、自身がどう歩むべきか どんな価値を返していくをか見つめ直せる良書なのでぜひ 蒼山継人
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蒼山 継人
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2022年1月24日
In 「信長の原理」
2013年の『光秀の定理』から始まった歴史小説の今回は三作品目にあたる。 いままで歴史小説で幾度となく描かれてきた信長の生き方を これまでにない斬新な視点から紡ぎだされた作品である ざっくり伝えると 織田信長の幼少期から最期を迎える本能寺の変まで、 信長の思考や心情など、いわゆる信長を形成している 「原理」にフォーカスしてストーリーが展開していく 新感覚の歴史小説ともいえる その原理とはなにか? 母親の愛情に恵まれず、幼い頃からひとりで遊んでいた吉法師(信長)は蟻の行列を飽きずに見続ける場面が描写されている。 その中で吉法師はある問いを抱く 「なぜ懸命に働くのは2割しかいないのだろう?」と 残りの6割は全体の流れに沿う形で働き、後の2割は怠け者になるということを何度確認しても変わることがなかった。 やがて織田信長となった少年は、人間にもこの法則が該当することに気づく いまでは有名なパレートの法則、働きアリの法則として有名であるが、その法則を題材としてなぜそうなってしまうのか? では本当に優秀なものだけにしたらどうなるのか 信長はそんな法則にもとづき、効率をひたすら追い、理想の組織を求めていく 自分をトップとして、配下のすべてが汗をかく、懸命に働く組織。いうなれば究極の成果主義である ただ、どれだけ目指してもその原理が浮き彫りとなる “この世に神は無くとも、神に近いこの世を支配する何かの原理のようなものが存在するのか。それが、これらの事象を発生させているのか”とたどり着く 基本信長の一人称視点であるが、配下からの視点や考えも含まれており、そこに働きアリの法則を取り入れたことによって これまでにない独自の戦国小説として完成している。 効率の時代ともいえる現代へのアンチテーゼともいえる本作品。終幕での「信長の原理」の真実をあなたはどう読み解くだろうか。ぜひ読んで語らいましょう。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2021年12月27日
In 「ロング・グッドバイ」
端的に言えば1950年代のロサンゼルスを舞台にしたハードボイルド小説の傑作である。 ミステリー分野におけるハードボイルド小説という金字塔を打ち立てたといわれるレイモンド・チャンドラー 主人公は世界で最も有名な私立探偵の一人 「フィリップ・マーロウ」 シリーズ全7作品のうち、6番目にあたるのが本作品だが 全作品の中でも最も熱烈に支持されている。 ※他作品を読んでなくても、全く問題なく読めます。 「ギムレットを飲むのはまだ早すぎる」 「さよならを言うのは少しだけ死ぬことだ」 「アルコールは恋に似ている」等をはじめ、 かつて聞いたことのある名文・名台詞が次々と出てくる。 思わず、ここから生まれていたのだとハッとさせられる。 あらすじとしては以下のとおりである。 ---------------------- 私立探偵として事件の捜査にあたっていたフィリップ・マーロウはある夜泥酔している男、テリー・レノックスと出会う。 レノックスは若々しい青年ではあるのだが総白髪で顔に目立った傷のある男だった。 その後もたびたびレノックスと出逢う機会があり、 人柄に好感を抱いたマーロウはバーでの交流を通じて彼と友人となっていく。 しかし、彼と知り合ってからしばらくたったある日、 深夜にレノックスが憔悴しきって拳銃を持って 「メキシコへ連れて行ってほしい」と言う。 レノックスの事情を詮索しなかったマーロウは指示通りに彼を送りとどけた。 その後、マーロウのもとに警察がやってきた。 レノックスの妻(大富豪の娘)が殺されたという。 マーロウは妻を殺した容疑に懸けられたレノックスの共犯者(逃亡幇助)という扱いとなってしまう。 彼の犯行ではないという想いと友情から黙秘を貫いたマーロウ。しかし、数日後にレノックスが自殺したという知らせが入り、彼は釈放される。 レノックスは本当に妻殺しの犯人であったのか。 真相を確かめるべくマーロウは独り捜査に乗り出した… ---------------------- 村上春樹が影響を受けたといっているだけあって その物語の構成そのものから類似性が見いだされる。 余談ではあるが ジョーゼフ・キャンベルの著書「神話の力」でも述べられていたように文化や時代を超えて人びとの心に語りかけてくる物語が『神話』と呼ばれるものであり、その神話の構造と似ているのである。古代から読み継がれていく物語には共通項がある。 村上春樹は、彼の比喩でいうならその金脈を掘ることに成功した作家ともいえる。 もどるとフィリップ・マーロウの生き様は、 一個人としては脆弱で、脆さもあり 時折、強欲で強大な資本主義的なシステムに絡めとられそうになるけれど、 金のためでもなく、名誉のためでもなく、女のためでもなく、友情のためでもなく、 ただ、自らの信じる信念のためだけに生きる。 そのカッコよさがまさしくハードボイルドである。 訳者あとがきには "準古典小説としての『ロング・グッドバイ』"というタイトルがついており、そのボリュームもしかり、こちらも読みごたえのある内容となっている。 筆者も学生時代、教授からよく言われていて 村上春樹も同様のことを述べているが、 「原著は滅びないが訳書には賞味期限がある」 清水氏の訳も良いが、この村上春樹の訳が美味しいうちにぜひ読んでほしい。 蒼山継人
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蒼山 継人
トップライター
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2021年12月03日
In 「あなたのなかのやんちゃな神さまとつきあう法」
幼少期から神さまとの問答を繰り返してきた金城幸政さんの初の著書 その公演は絶大な人気で、 目次を見ても、一見怪しいスピリチュアルな印象を受ける 1章 神さまに愛される人は笑いとユーモアを持っている 2章 私たちが「神さま」なんだから 3章 人生は超シンプル!ただ思うだけで願いはかなう 4章 その悩みは自分を生きれば解決できる 5章 自愛があれば、必ず幸せになる 冒頭からスピリチュアル感が充溢しているので 受け付けられない方は厳しいかもしれないが ただ読み進めていくと内容としては人生において肝要なことが満載で 「まさか、まじめに生きなきゃなんて思ってませんよね?」という 筆者の言葉の通り、まじめで一生懸命生きている方こそ読んでほしい一冊 引き寄せの法則や悩みの解決の仕方含めて その真髄をさらっと伝えられていて 筆者の聡明さも感じ取れ、人生がとてもシンプルに読み取れる 自分は神と知りつつ、とことん人間を生きよう さあ、やんちゃな旅路へ 蒼山継人
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蒼山 継人
トップライター
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2021年11月20日
In 「蜜蜂と遠雷」
第156回「直木賞」と2017年「本屋大賞」の史上初のW受賞作品 ピアノとクラシックを扱う小説は多くなってきているが これほどまで「聴こえる」小説はそうないであろう。 恩田陸の筆力とここに至るまでの背景には脱帽しかない。 物語としては3年に一度開催される浜コン(浜松国際ピアノコンクール)をモデルにした「芳ヶ江国際ピアノコンクール」を舞台に、出場者四人を主役にした群像劇である。 登場順に紹介をすると 風間塵(じん)、十六歳。 養蜂家の父のもと、各地を転々としてきたため なんと自宅にピアノを持たないにも関わらず、 クラシック界の権威であるユウジ・フォン=ホフマンに5歳から師事しており、その推薦状を携えてくる。 栄伝亜夜、二十歳。 かつて天才少女として数々のコンクールを制したエリート。 ただ13歳のときに指導者である母親を亡くし、深い挫折を経験。世界のあらゆるものに音楽を聴きとってきた彼女の才能がまた開花していく。 高島明石、二十八歳(同コンペ上限年齢) 楽器店に勤める一児の父のサラリーマン音楽家。 仕事の合間を縫って練習に励むが、他の出場者との練習量の差は歴然。ただ、いまの自分だからこそ表現できる「生活者の音楽」を目指す。 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、十九歳。 少年期は日本でも暮らしており、名門ジュリアード音楽院に通う優等生。今大会の優勝候補。 彼の演奏技術と音楽性は他の追随を許さない。 この四人の第一次、二次、三次、本選と2週間にわたるコンクールをすべて描き切っている。 曲はバッハの平均律に始まり、 モーツァルト、リスト、ショパン、ブラームスなど また「春と修羅」という書き下ろしの現代曲もでてくるが、 この世に存在しないこの架空の曲でさえ、四人それぞれからの解釈で聴こえてくるから驚愕する。 序盤に目にする風間塵の推薦状にはこう書かれている 〈皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。〉 〈彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『災厄』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。〉 このコンクールに塵がもたらすものは… 構想に12年、執筆に7年を掛けたという恩田陸の長編小説『蜜蜂と遠雷』 「狭いところに閉じこめられている音楽を広いところに連れ出す」という塵の言葉は物語にも通底するが、音楽そのものへのギフトである。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2021年11月18日
In 最終講義 「生き延びるための七講」
毎年5,6冊くらい執筆している内田先生の初の講演集。 2008年、2010年、2011年に行われた講演を収録したものである。 「知」というものの在り方、贈り方を総じて学ぶことができる。 本書の中でも先生が仰っている倍音の効果なのか、 水平的にも時間軸的にも一人の話を聞いたとは思えないほどの余韻が残り続ける。 第一講のみ詳細に伝えると神戸女学院大学を退官するときの講義で、神戸女学院大学や関西学院大学、明治学院大学の礼拝堂等を手掛けたヴォーリズ建築の特徴について語られ、「自らの手でドアノブを回したものに贈り物は届けられること」、「存在しないものへのかかわり方」を述べられ、そして「世界内部的に存在しないものと関わることを主務としているのは文学部だけ」と希望を残す。 その後の講演録も北方領土問題、政治やメディアの構造、ニチユ同祖論等の様々なテーマに触れられている。 特に教育投資に連なる、教育を一望俯瞰できるおぞましさを挙げ、そういった資本主義的な現状の学校教育に対して本来あるべき姿に関して多くのメッセージが詰まっている。 最後には文庫版の付録として共生する作法について残されている。 内田先生の本は愛読している筆者としてはどこかで聴いたような話が多いのだが、講演のときの勢いがあるせいか、よりアップデートされて、既知がまるで未知との遭遇のように思える。 人間を「人間」たらしめるものは何か。 朝四暮三の故事からそれを「夕方の自分も朝方の自分も同じ自分だ」と思える能力である。 内田先生が師事したレヴィナスは他人と他者の言葉の意味を分けて考えており、「他人」とは過去・現在・未来の観点で現在における自分以外を指し、「他者」とは過去・現在・未来のすべてを内包した、たったいまこの瞬間の私以外を指していると示した。 この他者には過去の自分と未来の自分さえも含まれる。 そしてレヴィナスはこの他者に対して、誠実であれと言う。 知とはまさしくかくあるべきではないか そう考えさせられる、まさしく倍音響き渡る言葉の書である。 蒼山継人
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蒼山 継人
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2021年11月05日
In 「僕は君たちに武器を配りたい」
いまは亡き瀧本哲史さんの名著です。 学生時代にお世話になった方も多いのではないでしょうか 大学生はもちろん これからの社会を生き抜く20代には特におすすめです。 筆者も冒頭に述べています。 ”本書は、これから社会に旅立つ、 あるいは旅立ったばかりの若者が、 非常で残酷な日本社会を生き抜くための、 「ゲリラ戦」のすすめである。” 資本主義においてコモディティ化がますます加速していく昨今、これからの時代においてどう生きるか(生き残れるか)を 明瞭に示してくれます。 そのメッセージとして要約すると 「人材のコモディティ化を避けてスペシャリティになれ」ということになるのですが スペシャリティとして6つのタイプを挙げており 生き残る4つのタイプと生き残れない2つのタイプに分類されます。 生き残れない ・商品を遠くに運んで売ることが出来る人(トレーダー) ・自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート) 生き残る ・商品に付加価値をつけて、市場ニーズを創造して売ることが出来る人(マーケター) ・これまでにない新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター) ・ある種のクレイジーさを発揮し、リーダーとして行動できる人(リーダー) ・投資家として市場に参加している人(インベスター) またそのうえで特に投資家的な発想を学ぶことがもっとも重要だと述べられています。 なぜなら、資本主義社会ではすべての人間は、 投資家になるか、投資家に雇われるか、どちらかの道を選ばざるを得ないからです。 異論もあるかもしれませんが今から10年以上前に示していることに畏敬の念を覚えます。 筆者は終盤こう述べています ”リーマンショック以降の日本では 資本主義そのものが「悪」であるかのように見なされる風潮がある。 しかし資本主義それ自体は悪でも善でもなく、ただの社会システムにすぎない。 重要なのはそのシステムの中で生きる我々一人ひとりが、 どれだけ自分の人生をより意味のあるものにしていくかだ。” このシステムの中でどう生きていくか(武器)を 示してくれる(与えてくれる)名著です。 蒼山継人
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2021年11月05日
In 「夢をかなえるゾウ」
こちらはシリーズにもなっていて 「自己啓発小説」という新しいジャンルの走りにもなった本なのでご存じの方も多いかと思います お金持ちになりたい 成功したい 有名になりたい このままでは終わりたくないと思っている そんな平凡なサラリーマン(主人公)のもとに ガネーシャというヒンドゥー教におけるシヴァ神の長男で ゾウの頭が特徴的な豊穣や英知、商業の神が訪れます。 そんなガネーシャが関西弁で成功法則をストーリー形式でコミカルに主人公に伝えていく形になっています。 私自身、いわゆる自己啓発関連にはあまり触れてこなかったのですがなぜこれほど売れているのかという観点から読み進めるとその理由がわかってきます。 歴史上の有名人のエピソードを交えながら成功法則を教えてもらえるのですがその成功法則はある意味陳腐化しているというかありふれていて、これならできそう!と思えるものになっています。 ある意味、自身が立ち返ったときにこの内容ができているか 一種のリトマス紙、試金石のように図ってみても面白いと思います ただ、実際やらない人間が多い どうすればうまくいくのか、みんなわかっていても 「面倒」だからしない。 終盤、ハッとさせられると思います。 成功したいなら行動する その小さいけど偉大な一歩を踏み出す勇気をくれる本です 蒼山継人
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蒼山 継人
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2021年11月05日
In 「13歳からのアート思考」
私自身においてはこれがこの本におけるもっとも大きな発見でした。 幼少期から絵は苦手で、美術というのは 感覚的なものでそういった分野に優れている人たちで 成り立っているものだと捉えていました マティス・ピカソ・カンディンスキー デュシャン・ポロック・ウォーホルと 現代までの偉大な芸術家を辿っていき、 点のように位置づけられていたものが一つの線となります まさに目から鱗が落ちる内容で 13歳からと記載されているように その平易な言葉で構成されているものの 内容は大変充実しております そもそもなぜ13歳なのか? ある調査によると小学校から中学校へ進むタイミングで、 「美術」が最も人気を無くす教科だそうです。 理由は美術に「正解」を求めた教育を施しているからです。 だからこそ、よくわからない「美術」に強く苦手意識を抱くことになってしまうのです。 なので本来我々が持ちえたアート思考を もう一度取り戻せる機会を与えてくれるのがこちらの本です。 正解が先にあるのではなく、自身が正解を創造する現代における必読書です。 蒼山継人
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2021年11月05日
In 「神を見た犬」
著者であるディーノ・ブッツァーティの名を知っている方は きっと日本では多くないとは思うがイタリア文学界では最も権威ある文学賞である「ストレーガ賞」を受賞しており、20世紀イタリア文学を代表する作家である。 そんな彼の短編集で、『神を見た犬』というのも22の短編の表題の一つである。 ウィットに富んだ、強烈なユーモアともいうべき魅力的な短編が詰まっている。 ブッツァーティは魔術的幻想文学とも呼ばれている。 ローマ教皇庁(バチカン市国)のお膝元であるイタリアのキリスト教文化のなかで育ち、元ジャーナリストとしての客観性も相まってまるでキリスト教を対岸から眺めているかのような冷酷かつ透明感のあるシニカルさにハッとさせられる方も多いのではなかろうか 類まれなる感性から織りなされる物語から 我々の心の奥底にある不安や恐怖、 さまざまな強迫観念が容赦なく突き付けられ ぞくりと身を震わせながらも読み進めてしまう ”モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇” あなたはどの作品が刺さったか そう語り合うだけでも楽しい夜になるだろう 蒼山継人
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蒼山 継人

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