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#NEKOJITA

「食」にまつわる、熱々のエピソードをご紹介。

楽しいから笑う、笑うから楽しい———
​みんなを笑顔にするおいしい話、グルメ旅の記憶や幸せのレシピ、
トリビア、失敗談など、「食」にまつわるエピソードを集めています。
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#NEKOJITA

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丸の内1-1-1。
バルコニーから夕焼けに染まる皇居や富士山を眺めているだけで不思議と明日への活力が戻ってくる。このパレスホテル東京には、現代的で利便性を備えながらも土地に根差した日本らしさや格式がしっかりと感じられる。日本を訪れる世界の人達は、宿泊先にも一定の日本らしさを期待しているだろう。しかし、その期待に応えられるホテルはまだまだ少ないように思う。とくに京都がそうだ、外資系ホテルばかりが立ち並ぶことを地元の人達はひどく嘆いていることだろう。いまのところ、風情ある日本旅館に泊まることが京都においてはふさわしい選択なのではないだろうか。


このホテルを初めて訪れたときのことを想いだす———

「ご予約を確認いたします。」
「・・・本日のご予約でございますか?」
「ええ、なにか?」
「失礼いたしました。」
「・・・ご用意できております、直ぐにご案内をさせて頂きます———」

あの時、二人から予約に関して尋ねられたことを不思議に思っていたのだが、部屋に滞在していてカレンダーの日付を見たときにハッと思った。こちらの誤りに気が付かず大変申し訳ないことをしたのだが、それでも部屋をすぐに用意してくれたこと、お連れした方への配慮も含め、私はあの日ホテルから最高のホスピタリティを受けた。

私は、予約の電話の際に宿泊日の「月」を間違えて伝えてしまっていたのだ———

本来なら部屋などあるはずもない。とんでもない勘違いをしでかしていた私は、食事をした後、一人レセプションに立ち寄り詳しい事実を知った。あの時の恥ずかしさと笑顔で再度迎えてくれた二人のことを忘れることはないだろう。謝罪とともに、心からの感謝と(一か月後の)予約をそのままにしておいて欲しいと伝えたのは言うまでもない。

20年近くも前のことだが実際にあった話だ。この出来事があってから、現在のパレスホテル東京になってからも私はこのホテルを数十回と訪れている。しかしながら過度なVIP待遇を受けたことは今まで一度もない。テラスで食事をしながら本を読んでいるときも、パーティを企画したときも、宿泊しているときもだ。それでも、「我々は貴方のことを良くわかっています」というパーソナルな反応や空気感をスタッフからいつも感じている。それがとても心地よく、対等な関係にも心から満足している。

「ソワニエ/soigner(仏語)」という言葉をご存じだろうか?
私はこのホテルを訪れる際には必ずサロンで身なりを整えている。それがスタッフに対する感謝とリスペクトの証なのだ。クレームやトラブル、あの時のようなことは少なからずあると思うが、プロ意識と誠意ある対応を目にする度、彼らのことやホテルの成長を心から応援したいという気持ちになる。


京都のイタリアンレストランを訪れたときにもこんなことがあった———
誕生日の女性を連れてお祝いのランチをしていたのだが、デザートのタイミングになり突然私の目の前にバースデープレートが用意された。プレートに書かれていたのは私の名前でも彼女のものでもなく、、それを見た私たちは目を合わせてキョトンとした。

「頼んだの?」
「いや頼んでないよ、それに誕生日は僕じゃないでしょ。」
「しかも名前が違うし・・・」
「え、じゃあどういうこと?」

あまりにも突然の出来事であったため彼女も驚いていたが、少しして、そのプレートが誰のためのものなのか気が付いた。同日、同時間帯に誕生日のお祝いをしているゲストが我々を含めてもう一組いたのだ。何かの節に勘違いをしてしまったのだろう。席も比較的近くヒヤリとしたが、我々は、間違えて私たちのところにプレートが用意されていることをメモ書きにしてスタッフに見せた。そして、事なきを得て、改めてあの日二度目となるバースデープレートが正式なゲストのもとに用意された———

会計を済ませ、店を出たところで地元出身のシェフが私たちを呼び止めた。
カウンター越しに紅葉を見に訪れていた私たちの会話を聞いていたのだろう。そのお詫びとともに地元で穴場のスポットをわざわざ紹介してくれた。人がやっていることなのだからミスや失敗はつきものだ。しかしそれが逆に、私たちの満足度を高め、本当に忘れがたい旅の思い出を作ってくれた。彼女も喜んでくれたので、誠意をもって最後まで接してくれたお店にはむしろ感謝をしたいと思った。しかしながら、それから暫くはバースデープレートと聞く度、見る度にソワソワしたのは言うまでもない(笑)


ホテルの話に戻るが、
このパレスホテル東京には昔からの伝統料理がきちんと継承されている。ローストビーフやマロンシャンティイ、そして私の一番のお気に入りはケークオランジュだ。また、ロイヤルバーに行けば、初代バーテンダーが作ったマティーニやジンフィズが素晴らしい技術のもとに再現されている。それら一つひとつに、このホテルを育んできた人たちのこだわりや一期一会が受け継がれているのだ。訪れる人たちにとってはそれが付加価値となり、私たちにとっては学びの機会ともなる。新しいものや海外の流行りも良いだろう。だが、日本で永く受け入れられてきたものや時代と共に洗練されてきたものを知ることも今の日本人には必要なことなのではないだろうか。海外からのリスペクトを私たちはもっともっと知るべきだ。内側に目を向けること、それが伝統と格式を守り、世界からの期待に応えることにもつながっていくのだ。

国有国営として始まったパレスホテル東京をご紹介させていただいた。
私の拙い体験が日本を回帰する機会を生み出し、彼らとともに「日本らしさ」を世界に発信する一助となればとても誇らしく思う———


『パレスホテル東京』
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-1-1  
TEL 03-3211-5211
https://www.palacehoteltokyo.com/

美しい国の、美しい一日がある。
~Experience the Heart of Japan.~

パレスホテル東京

2022.05.04

丸の内1-1-1。
バルコニーから夕焼けに染まる皇居や富士山を眺めているだけで不思議と明日への活力が戻ってくる。このパレスホテル東京には、現代的で利便性を備えながらも土地に根差した、、、

場所はフランス国境近くの街「オンダリビア」。
もう何度この地を訪れただろう———はじめてサン・セバスチャン空港に降り立ったとき、荷物の受け取りには2時間近くかかった。待っていたバスの行き先表示には「Donostia※」と書かれ、はたしてどこに連れて行かれるのかもわからず困惑しながらの旅路だった。
※Donostia(ドノスティア)バスク語で「サン・セバスチャン」の意。

ヨーロッパ生活は長かったが、
このバスクの地はまた違った独特の不便さがある(笑) 通じ合えない・・・バス停の表示や場所も絶妙にズレている。どの街のインフォメーションも決して親切ではなかったが、しかしそれがまた、僕の記憶を鮮明に残しつつ、再訪するきっかけを作っていたのだろう。
今となっては、馴染のバルや懇意にしてくれる料理人とも疎通ができている。そう、目的はいつもバルやレストランを巡ることだった。

店内のアナウンスで自分の名前が呼ばれる———
バルでそんな経験をした方は多くはないだろう。発音しづらいのか、何度も自分のファーストネーム(らしき名前)が店内にこだまする。ムズ痒く、そして絶妙に恥ずかしい・・・(笑)
カウンターに並ぶピンチョスとは違い、タパスはオーダーを受けてから作る。外国人をふくめ、利用者が多いからだろう、間違えないよう注文時には名前を聞くような仕組みになっていた。

運ばれてきたのは半熟卵を使ったこの店「グラン・ソル※」のスペシャリテ———
不思議に思ったが、日本人の心とも呼ぶべき「カツオ」が隠し味に使われていた。近くにある「エルマンダー※」の魚介スープとはまた別物であるが、これはまた・・・
視線には気付いていたが、何人かのスタッフが声を掛けてくる。
まだ当時は珍しかったのだろう。慣れた手つきでチャコリを注ぐと「どこから来た?」「何しに来た?」「一人か?」———不思議そうではあったが、僕をからかうようにみんなフレンドリーに接してくる。質問攻めに、こちらも頑張って応戦する。呼ばれる名前は相変わらず絶妙に違っていたが、これはこれでバスク訛りとして受け止め、新しい名前を授かったのだと理解した。乾杯すればもうそんなことはどうでも良い。故郷の話をすれば、もうスタッフとの垣根もなくなっていた———
※グラン・ソル 港町オンダリビアにあるバルの名店。
※エルマンダー 正式名は「エルマンダー・デ・ぺスカドーレス・ハテチュア」。こちらも歴史ある名店。


小さな漁師町ゲタリアに移動し、早速インフォメーションへと向かう。
チャコリの生産者に会うためワイナリーに問い合わせて貰った。受け入れ先は少なかったが、やっとのことで決まった訪問先は4人からだと説明があり、参加者が揃うまでランチを取ってからまたこちらに戻ると伝えた———
ちなみに、この時に手渡された街のガイドマップだが、
よく見るとショップやレストランの挿絵もなければ縮図も明らかにおかしい。何かの設計図か観測マップなのだろうか・・・なにを紹介したものなのかさっぱり見当がつかないが、それでも、マップの右上には可愛らしい「クジラ」の絵が描かれていたので少しだけ嬉しい気持ちになった。

くじらマップを手にした僕は、「エルカノ※」を横目に、高台から海へと向かってメインの通りを歩いた。国旗や「ラウブル」と呼ばれるバスク十字※が街の中にひっそりと溶け込んでいる———見つけるとちょっぴり嬉しくなるので訪れた方はこのささやかなゲームをぜひ試して欲しい。なんの変哲もないちょっとした木製ドアにも、よく見ればこの土地の伝統や歴史が刻まれていることに気がつくだろう。
※エルカノ ミシュラン星付きレストラン。炭火焼が特に有名。
※バスク十字 卍に似た曲線状の4本のアームを持つバスクのシンボル。繁栄を意味するとされている。

大西洋が目に飛び込んできた。少し先にはアンチョビの工場。
(お腹が減っていた)僕はある建物の軒先で立ち止まった———
というのも、入り口に「魚」をモチーフにした愛らしい看板が掲げてあったからだ。おそらくハテチャ※、魚料理の店だろう・・・外にメニューはなかったが、たしかな磯の香りがする。少し疑いつつも中へと入った———
※ハテチャ バスク語で「食堂」や「食事する場所」の意。



つづく

バスク地方を訪ねて①

2022.03.08

場所はフランス国境近くの街「オンダリビア」。
もう何度この地を訪れただろう———はじめてサン・セバスチャン空港に降り立ったとき、、、

念願のクリニックを開業したとの連絡をもらい、その女性をお祝いすべく六本木にあるフレンチレストラン『le sputnik』を訪れた―――

予約の際に「開業のお祝いです」とだけ伝え、当日の料理やワインはすべてお任せにし、初めて訪れるのだから折角のお店のコンセプトをそのまま楽しむことにした。
この店を知ったのは2年くらい前だったか、、薔薇を咲かせたような美しい一皿があり、一度味わってみたいと思っていた。寒い冬に薔薇を咲かせてもらえるのならこれほど有難いことはないし、きっと彼女も喜んでくれるだろう。

                  ※

当日、予約の時間まで30分ほどあったのを見計らい、近くの「ゴトウ花店」に立ち寄った。お花を買うつもりはなかったのだが、プレゼントやコサージュを買うために何度か訪れていたし、引っ越したばかりで素敵な鉢植えを探していたので良い機会だと思った。

店内に入ると、以前と変わらず、ゆったりとした空間に色とりどりのお花が美しく並んでいた。ここを訪れるたび、たくさんのお花と心地よい香りに囲まれて働いているスタッフのことを羨ましく思っていたが、生花のケアはとても大変だし、開花のタイミングや季節に合わせてあれだけの数を揃えているのは本当に立派なことだと思った。実際のところは休みなく働く日もあるだろうし、それでも、生き生きと仕事をしている姿を見ていたらこちらまで幸せな気持ちになってくる。

声をかけてくれたスタッフに薔薇の植付けのことを聞いてみた。以前に苗をいただいて育てたが、病気で駄目にしたことがあったからだ。知らなかった水はけのことや雨対策など、詳しく丁寧に説明してくれるスタッフに感心しつつ、気持ちの晴れた私は近く再訪することを伝えた。

                  ※

「le sputnik」のエントランスに到着すると、
暫くしてゲストの女性と合流した。彼女とはワインを通じて知り合い、もう10年近くの付き合いだが、独立したいという話は以前から何度も聞いていた。コロナ禍であっても着々と準備を進めていたようで、私にとってもとても嬉しい知らせだった。

内側からドアが開き、店内へと案内された―――

テーブルに着くと早速シャンパンが運ばれ、私は乾杯とともにお祝いの言葉を伝える。美味しいと、彼女は優しい笑顔で応えてくれた。置かれたボトルを見ると、ラベルにも美しい女性の横顔が、、このシャンパンが女性へのオマージュとして造られたものだとすぐにわかった。はじめての空間であっても緊張することはなく、ハンサムな男性ソムリエの心遣いであっという間にその場が和やかな雰囲気になる。会話を止めないように、サーブもセンス良く、とても丁寧だった。

ショープレートに置かれたメッセージカードには、お店のコンセプトがこのように綴られていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

       店名の由来となった「sputnik(スプートニク)」は
     もともとロシア語で「同行者・旅の連れ」を意味する言葉です
       私たちは、よその国の言葉を自国の言葉にするという
        フランス人の柔軟かつ前衛的な姿勢を尊重して
  フランス料理の伝統を重んじながらも新しいことに挑戦したいという気持ちを
         この「le sputnik」という店名にこめました

      みなさまが伝統から生まれる新しい提案の同行者となり
        束の間の旅を楽しんでくださることを願います

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「同行者・旅の連れ」まで読んだところで、私はロシアではなく、フランスでもなく、オレゴンを舞台にした映画「スタンド・バイ・ミー(そばにいて/寄り添って)」を連想していた、、大人となり作家となった主人公が、親友の死を知ったことからその彼と少年時代に経験したひと夏の思い出を回想する。私の大好きな映画だ。

それはいいとして、このお店のコンセプトは、「旅」に見立てた素晴らしいコース料理とサービスを通じてゲストに寄り添い、前衛的(仏語でavant-garde/時代を先駆けるさま)で新しいことにチャレンジしていくというものだ。華々しい芸術や文化を育んできたフランス人へのリスペクトや感謝も感じられ、居心地のよい空間づくりのためにしっかりとしたコンセプトが掲げてあった。

「スタッフにできないことはゲストにもできない。」―――私は駆け出しのころ職場にいたフランス人からそのように教わったことがある。スタッフが困っていることに気が付かないのであれば、きっとゲストが困っていても気が付かないだろう、、とてもフランス人らしい着想であり、日本人とはまた異なる視点を持っていることがわかる。最上の空間を演出するためには、ゲストのことだけではなく、スタッフ同士もまたお互いを気遣うことを忘れてはならないのだ。

起業者の想いに触れるというのは、開業した彼女にとってもよい刺激となっただろう。コンセプトメイクや空間づくりには苦労したそうだし、彼女の場合は動物クリニックだから、聴覚や嗅覚を頼りに生活をしている動物たちのことまで考えなければならなかったのだ。本当に頭が下がる。

                  ※

そんな彼女の話を聞いていたら、
この日の我々にとってのメイン料理、フォワグラが運ばれてきた。
―――私はため息をついた。けっして彼女と私で違うフォワグラ料理が用意されたからではない、、盛り付けが本当に美しかったのだ。さすがに驚いた―――ビーツを薄く飴細工のように加工し、フォワグラのムースの上にそのチップスを薔薇の花びらのように重ねていくそうだ。

お祝いなのだから、よく考えなくとも分かりそうなものだが、実はてっきり私にも薔薇のプレートが用意されるものだと思っていた、、ずっとそれまでは同じプレートだったのだ!しかし、それを顔には出さないように私はグラスの赤ワインを飲み干し、男の「旅」はいばらの道、とても険しいものなのだと悟った、、

(まあそれは冗談として、)
シグネチャー(代表料理)とされている一皿を味わうことこそ叶わなかったが、よろこぶ彼女を見て、お祝いという日に華を添えられたことは素直に良かったと思う。
また機会をみつけ、是非とも再訪したいお店の一つとなった。

コンセプトを大切にするというこの日の食事を通じて、
「ひとりなら早く行けるが、ふたりなら遠くまで行ける。」―――そんな言葉があることも思い出した。ここでもスタッフは生き生きと仕事をしていたし、私は好きな映画や自身の経験と重ねつつ、彼らが寄り添い、コンセプトに込めた想いが多くのゲストに伝わっていくことを心から応援したいと思った。


最後に、シェフをご紹介しておこう。
高橋雄二郎シェフは福岡県のご出身。フランス料理に魅せられ2004年に渡仏。
三ツ星「ルドワイヤン」をはじめ、パティスリー「パン・ド・シュクル」、ブーランジェリー「メゾン・カイザー」など、各分野を専門的に掘り下げて帰国。国内でもご活躍されたのち、2015年に同店をオープンさせた。
ソースに存在感を与えながら、羅列ではなく一つ一つのお皿を「旅」のように繋いでいく。2回目以降の来店であれば、一人ひとりに寄り添い、また違ったお料理のご提案もしてくれるそうだ。お祝いだけではなく様々なシーンで利用したい。

『le sputnik』
〒106-0032 東京都港区六本木7-9-9 リッモーネ六本木1F
03-6434-7080
https://le-sputnik.jp/

le sputnik (六本木/フレンチ)

2022.02.27

初めて訪れるのだから折角のお店のコンセプトをそのまま楽しむことにした。この店を知ったのは2年ぐらい前だったか、、薔薇を咲かせたような美しい一皿があり、、、

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