『大佛次郎記念館』
女子美術大学付属中学校2年生による猫の挿絵展示『猫のいる日々』
21/11/29
港の見える丘公園———
久しぶりに横浜市山手町にやってきた。とても天気が良く、見晴らしの良い高台の広場はたくさんの画材を並べ、油絵を描く人々で溢れていました。印象派クロード・モネの『花の庭園』を連想させるステキなお庭を抜けると、立派な赤レンガの建物が見えてきた———大佛次郎(おさらぎじろう)記念館である。
大佛次郎さんは、幕末開化期の横浜を舞台とした『霧笛(むてき)』や『幻燈(げんとう)』を世に送り出したことで知られていますが、地元横浜だけではなく、鎌倉や兵庫、フランス・パリにもゆかりの地があります。鎌倉に移り住み、作家活動に専念していた頃、鎌倉長谷大仏の裏手に住んでいたことから、大佛(おさらぎ/大仏の旧字といわれている)をペンネームに用いることを思い付いたそうです。
本名は野尻清彦。フランス文学にも造詣が深く、時代小説家として文化勲章を受章するなど数々の名作を残しました。また、三島由紀夫さんや谷崎潤一郎さん等と同じく、大の猫好きだったことでも知られ、小説や童話だけではなく数々のエピソードが残っています。今回の挿絵展示『猫のいる日々』は、女子美術大学付属中学校生たちが、猫を題材にした大佛次郎さんの作品を読み、感想とともに空想で描いた猫の挿絵を展示するという企画だそうだ。
『猫の風呂番』———
首輪は付けていないが、庭に戻ってきた「お風呂屋のタマ」が
大佛家の浴室を占拠したのかもしれない。
『小猫が見たこと』———
生まれて初めて塀の外へ出た小猫の話。
月夜に照らされた兵隊姿の人間は、小猫の目にはとても大
きく映ったに違いない。
「藤の花と猫」———
自宅の藤棚に群がる猫たちを見て、いくらなんでも数が多過ぎると猫たちに対するクーデターを考える。猫好きにはたまらない、心温まるエピソード。
2階には代表作「霧笛」———
横浜生まれの大佛次郎さんが、愛惜を込めて描いた名作。
外国人居留地の光と影を綴ったこの作品は、ホテルニューグラ
ンドの一室で書かれたと言われています。
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大佛次郎記念館には図書室もあり、現在では手に入り辛くなった大佛次郎さんの全著作を自由に閲覧することができます。また、作品に纏わる展示会も数多く開催されおり、いつも来訪者を愉しませてくれます。
周辺には、素敵なレストランや邸宅、少し歩けば『ヨコハマ猫の美術館』といった珍しい施設もあります。猫好きではなくとも、一度、時間を作り記念館を訪れてみてはどうだろうか———
「私ほど横浜を書いた作家は他にはいない」という言葉を残したとおり、故郷の描写はとても印象的で、きっと素敵な巨匠作家の一面に触れることができるはずです。
『猫のいる日々』———
自身の最高傑作とした童話『スイッチョ猫』を含む、
猫にまつわるエッセイ・短篇集。
猫のお勧めであるのは言うまでもない。
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大佛次郎記念館
〒231-0862 横浜市中区山手町113
http://osaragi.yafjp.org/
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