「FACT FULNESS」
著 者:ハンス・ロスリング
出版社:日経BP
発行日:2019/1/11
2022年2月8日
世界について無知にならないために———
公衆衛生学者、教育者としても有名な著者のハンス・ロスリングは述べる。
もしあなたが「世界はどんどん悪くなっている」と感じているとしたら、それは事実に反している。それどころか世界は確実に、どんどん良くなっている。と
タイトルにもあるファクトフルネス(FACTFULNESS)とは、
「データを基に世界を正しく見る習慣」を意味する。
多くの人は、「自分が知っている世界は事実とそうかけ離れたものではない」と信じこんでしまっている。
そんなことはないと思ってしまう読者に本書ではまず13の質問が用意されている。
これはロスリング氏が考案した経済、人口、保健、環境に関する13問の3択問題である。
これまでに14カ国、述べ1万2000人が回答したところ、
正答率が最も高かったグローバルな気候変動の問題(正答率86%)を除いた12問について、
その正答数は平均でわずか2問だったのである。
つまり国際的に活躍しているエリートでさえ、
ほとんど正解にたどり着くことができなかった質問である。
それは例えば、こんな問題。
質問1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を終了するでしょうか?
A:20%
B:40%
C:60%
質問2:世界でもっとも多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A:低所得国
B:中所得国
C:高所得国
続きの質問はぜひ本書で体験してほしいが
どうしてこのように世界についての間違った認識が蔓延しているのだろうか。
もちろんセンセーショナルなジャーナリズムや、脅しをかける活動家の責任もある。
しかしそれは微々たる影響でしかない。
その根本には、私たちの本能に根ざした思い込みがある。
その本能として以下のものを挙げている。
10のドラマチック本能
①分断本能
②ネガティブ本能
③直線本能
④恐怖本能
⑤過大視本能
⑥パターン化本能
⑦宿命本能
⑧単純化本能
⑨犯人捜し本能
⑩焦り本能
そしてそのメカニズムと対処法についても提案されている。
そのうえでこれらの本能に抗うには、知識不足と戦い、
定期的に情報をアップデートすることが必要だと主張している。
つまりデータに基づいた真実の世界の姿を私たちに示し、
そうした思い込みを克服する習慣、すなわちファクトフルネスを身につけるように提唱しているのである。
世界を正確に捉えることはビジネスモデルやマーケティング対象を選定する上で大変重要なことなので
仕事においても生きてくることは間違いないが、作中でロスリング氏はこう述べている。
ほかの本と違い、この本にあるデータはあなたを癒してくれる。
この本から学べることは、あなたの心を穏やかにしてくれる。
世界はあなたが思うほどドラマチックではないからだ。
健康な食生活や定期的な運動を生活に取り入れるように、
この本で紹介する「ファクトフルネス」という習慣を毎日の生活に取り入れてほしい。
著者はこの本を書き終える前に亡くなってしまい、
家族との共著になったが、だからこそこの本の持つ意味やメッセージは深みをより感じられる。
もちろん著者らは「世界はなにもかもがうまくいっていて問題はひとつもない」と言っているわけではない。
実際に起きる可能性が高いリスクとして、
感染症の世界的な流行、金融危機、世界大戦、地球温暖化、そして極度の貧困の5つを挙げている。
ただ世界は確実に良くなってきている
まずその事実(データ)を正しく認識したうえで
さあ、どうするかと問いかけてくる。
あなたがいま見ている世界に対して穏やかな気持ちになれて
これまでの思い込みから脱して、世界に希望をもってまた一歩を踏み出せる名著である。
蒼山継人