「ワイルド・ソウル」
著 者:垣根 涼介
出版社:新潮社
発行日:2021/7/22
2022年6月11日
知らないということは、それ自体で罪なのだ。
名作の多い垣根涼介であるが本作品は
第6回大藪春彦賞、第25回吉川英治文学新人賞、第57回日本推理作家協会賞の三賞を受賞した
垣根涼介の代表作である。
1960年代、戦後日本国政府・外務省が推し進めた南米への移民政策がある。
これは様々な文献があり歴史的事実として語られてきた。
だがその正体は戦後の食糧難時代に端を発した口減らし政策だったのだ
未開のジャングルで多くの命が失われた、実際の史実をもとにしたハードボイルドストーリー。
“その地に着いた時から、地獄が始まった――。
1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。
だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。
絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。
そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。
そして現代の東京。ケイと仲間たちは、政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す!
歴史の闇を暴く傑作小説。”
戦後の南米移民政策をベースに、
ハードボイルド・ミステリー・ヒューマンドラマと言ったあらゆる要素を含んだ本作品
南米出身の日系人がなぜ多いか。
その歴史的背景をリアリティ溢れる描写で表現し、多くの学びを得ることができる。
我々は何も知らなかった彼らのことを。
半世紀ほど前に多くの同胞を葬ったこの歴史を少なくとも私は知らなかった。
漫然といまを享受してしまっている自身を恥じてしまった。
この物語の序章はノンフィクションであり、
重い厳然たる歴史的事実を読み手の眼前に突き付けてくる迫力と、強い説得力がある
その子供たちが日本に復讐にやってきたときのセリフもまた考えさせられる。
“おれの国じゃあ、金のないやつはないなりだ。
服装も住む家もそうだ。それでけっこう笑って暮らしている。
だがこの国の連中ときたら、どいつもこいつも飾り立て、
少しでも自分をよく見せようと躍起になっている。
それがまあ、貧乏臭い”
棄民してまで手に入れた日本の現状を辛辣に言い表している。
復讐の内容もしかり、物語の背景は大変に残酷なのだが
痛快に読めるよう仕立てられていることがほんとうにすごい。
この種の悲劇は過去の歴史のそこかしこにあり、
現在も、そしてこの先も止むことはないのかもしれない。
ただ、いまをいきていくためにも
この本を読んで立ち返ってほしい。
蒼山継人