端的に言えば1950年代のロサンゼルスを舞台にしたハードボイルド小説の傑作である。
ミステリー分野におけるハードボイルド小説という金字塔を打ち立てたといわれるレイモンド・チャンドラー
主人公は世界で最も有名な私立探偵の一人
「フィリップ・マーロウ」
シリーズ全7作品のうち、6番目にあたるのが本作品だが
全作品の中でも最も熱烈に支持されている。
※他作品を読んでなくても、全く問題なく読めます。
「ギムレットを飲むのはまだ早すぎる」
「さよならを言うのは少しだけ死ぬことだ」
「アルコールは恋に似ている」等をはじめ、
かつて聞いたことのある名文・名台詞が次々と出てくる。
思わず、ここから生まれていたのだとハッとさせられる。
あらすじとしては以下のとおりである。
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私立探偵として事件の捜査にあたっていたフィリップ・マーロウはある夜泥酔している男、テリー・レノックスと出会う。
レノックスは若々しい青年ではあるのだが総白髪で顔に目立った傷のある男だった。
その後もたびたびレノックスと出逢う機会があり、
人柄に好感を抱いたマーロウはバーでの交流を通じて彼と友人となっていく。
しかし、彼と知り合ってからしばらくたったある日、
深夜にレノックスが憔悴しきって拳銃を持って
「メキシコへ連れて行ってほしい」と言う。
レノックスの事情を詮索しなかったマーロウは指示通りに彼を送りとどけた。
その後、マーロウのもとに警察がやってきた。
レノックスの妻(大富豪の娘)が殺されたという。
マーロウは妻を殺した容疑に懸けられたレノックスの共犯者(逃亡幇助)という扱いとなってしまう。
彼の犯行ではないという想いと友情から黙秘を貫いたマーロウ。しかし、数日後にレノックスが自殺したという知らせが入り、彼は釈放される。
レノックスは本当に妻殺しの犯人であったのか。
真相を確かめるべくマーロウは独り捜査に乗り出した…
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村上春樹が影響を受けたといっているだけあって
その物語の構成そのものから類似性が見いだされる。
余談ではあるが
ジョーゼフ・キャンベルの著書「神話の力」でも述べられていたように文化や時代を超えて人びとの心に語りかけてくる物語が『神話』と呼ばれるものであり、その神話の構造と似ているのである。古代から読み継がれていく物語には共通項がある。
村上春樹は、彼の比喩でいうならその金脈を掘ることに成功した作家ともいえる。
もどるとフィリップ・マーロウの生き様は、
一個人としては脆弱で、脆さもあり
時折、強欲で強大な資本主義的なシステムに絡めとられそうになるけれど、
金のためでもなく、名誉のためでもなく、女のためでもなく、友情のためでもなく、
ただ、自らの信じる信念のためだけに生きる。
そのカッコよさがまさしくハードボイルドである。
訳者あとがきには
"準古典小説としての『ロング・グッドバイ』"というタイトルがついており、そのボリュームもしかり、こちらも読みごたえのある内容となっている。
筆者も学生時代、教授からよく言われていて
村上春樹も同様のことを述べているが、
「原著は滅びないが訳書には賞味期限がある」
清水氏の訳も良いが、この村上春樹の訳が美味しいうちにぜひ読んでほしい。
蒼山継人